十一月十七日(土)

6時に起きて待機業務。ラボで紅茶を飲む。午前中はシリアスレジャー論文の文章を直していた。ステビンスが「シリアスレジャー」と「信念に基づく仕事」はともに「真剣な追求」であって、生計を立てられるかどうかの違いはあるけれど本質的には同じと言ってるのは重要だと思う。昨日の研究会では仕事/余暇概念の話をしたけれども、ステビンスはそこはあまり問題にしていない。彼にとっては「真剣さ」による自己充足が基底的な構成概念で、そういう意味では「心理学的」だと思う。英語のpursuitという語は本当に素晴らしい語だ。仕事だろうと趣味だろうと、継続して取り組むことはみんなpursuitである。修論では「趣味」ではなく「余暇における追求」と言っていたな、とあの頃の情熱を思い出した感じ。先行研究に合わせるために今は「趣味」を使うようになったけれども、やはりゆくゆくは追求の理論が立てられるべきだよな。論文の改稿はとりあえずこれでおしまいにする。カルタイどうするか返事しないといけない。
 
午後は写真調査の分析をしていた。ここ半年から1年くらい、先生に「思考の幅を狭めないように」「これ以外のことが言えないのか探すように」ということをずっと言われ続けている。もっと面白くなるかもしれないのに、今の結果で安易にまとめようとするな、と。ここにきてやっと、こういう時に『アイデア大全』を使えばいいじゃんということを思い出す。安易に趣味縁で説明してしまっているところを切り崩さないといけないのだから、「仮定を疑う」章を読んで、「問題逆転」がいいなとなった。確か昔もこれ使った気がする。自分の思考のクセにあっているらしい。「不特定の観衆が興味を深める」というこれまでの安易な説明を、「不特定の観衆が興味を深めるわけではない」と逆転させたうえで、ではどうなるということを考えていくと、色々とエピソードが書き出せた。さらに、書き連ねたエピソードから概念を発掘するために今度は「問題を察知する」章の「事例―コード・マトリクス」を使う。テキストを分解してコードを貼ってみると、SNSに写真をアップするようになったけれども、最初からそれが目的だったわけではなく、師匠の真似をする一環とか、せっかく写真撮ったんだしついでにアップするか、みたいな点に光が当たった。ああ、そこだよ、と思う。JSETで木村さんに「不特定の観衆からフィードバックをもらうこと」に興味がいったら、いいね競争みたいになりませんかと質問された時に、いやインタビュイーの方たちは別にそんな感じじゃないんだよなーと思ったのがこれだ。別に公開することは重要な目的ではなかった。でも公開してみたらフィードバックくるし面白かった。だから今それを面白いと思ってやってる。みたいな過程で興味を深めていて、承認欲求的な行動ではない。承認欲求という言葉をインタビューで語っていたのは、むしろこの方向に興味を深めてはいない人たちなのが面白い。「ついでにアップロード」が出た。これをさらに「シソーラスパラフレーズ」を使って構成概念ぽく変換してくと、「ついでに」は「便乗」になった。「アップロード」はSNSの文脈では公開することまで指すけれど、他の文脈ではそうならないので、本質的な要素を取り出して「発表」になった。こうすれば『発表会文化論』をはじめ、公演をするタイプの趣味とも比較できる。「便乗発表」。なかなか良いと思ったけれど、どうだろう。今度ゼミに持っていってみよう。オーケストラや吹奏楽舞台芸術は「便乗発表」が難しくて、基本的に知り合いを自分から呼んで「自己目的発表」にしないと公演が成立しないから、発表会文化化しやすいのかなと感じた。誰が見るかわからんけれども、とりあえず写真撮ったし「便乗発表」しとこ、みたいなノリが通用するのは写真とか、Scratchみたいなプログラム・コードとか、時間芸術じゃなくて非同期でも楽しめるジャンルに限られそう。だからこそ不特定の観衆との実践ネットワークが成立するところありそうだな。
 
杉山